デザイナー 月居良子さんインタビュー
デザイナー 月居良子さんインタビュー

フランスの手芸イベントに招かれて

てづこ:
月居先生は去年(2014 年)の11 月に、フランスの手芸イベントにご招待されたそうですが、如何でしたか?
月居さん:
Moncoutant(モンクタン)というフランスの北西部にある
小さな街で2年に1回開催されてね。
外国から手芸の作家さんを招いて作品を展示するイベント
(Salon “Créations autour du fil“)なのですが、
今回は日本がテーマだったので、私もご招待を受けたんです。
そこに行くには、まずパリのモンパルナス駅から
TGV に2 時間30 分乗ってAngers(アンジェ)まで行き、
そこから車で40 分のところにあるの。
てづこ:
ずいぶん遠~いですね。
月居さん:
モンクタンは、ふだん釣り客しかこない場所なんですって。
でも、このイベントの時は1 万人ぐらいが集まって来るの。
南フランス、ベルギー、イタリアからも訪れてましたよ。
てづこ:
そんなに集まるんですか! とても人気のあるイベントなんですね。
月居さん:
企業ではなく、モンクタンの刺繍クラブの方が主催されているんです。
とてもレベルや質が高いので、人気があるそうです。
運営側も楽しくやっていて、雰囲気がとってもいいんです。
モンクタンの町おこしの一端を担っていると思います。
私たちのお世話をしていただいたナディーヌさんのお宅で、
手作りのランチもいただきました。
そこは酪農をなさっていて牛やアヒルもいっぱいでした。
てづこ:
フランスの田舎で手作りのランチ、素敵ですね~。
月居さん:
ナディーヌさんのフランス式の心あたたまるおもてなしでした。
おばあさま秘伝のレシピで作ったケーキもアヒル料理も、
どれもとっても美味しかった。
都会とは違うフランスの田舎の暮らしを垣間見られて、
とても楽しかったです。
イベントを含めてなんですけど、皆いい人たちで、
気を使うこともなく居心地がほんとうによかったんです。


てづこ:
イベントでは、先生はどんなことをなさっていたのですか?
月居さん:
着物コンテストの審査員をしたり、自分のブースで作品展示をしたり、
私の本も日本から持っていきました。
でも、初日の午前中でSOLD OUT してしまい、
もっと持っていけばよかったなぁ、と思いました。

会場に展示されたワンピース。写真左は『なんたって ワンピース!』P.12の作品。


てづこ:
先生の本はフランスでも翻訳本が出ていて人気だから、
ファンの方もたくさんいらっしゃったんですね。
イベントに来ている方々はどんな感じでしたか?
月居さん:
幅広い年齢の方が来ているんだけど、若い人がとても多いの。
フランスでは、若い人は洋服にお金をかけずに自分で作るらしいの。
日本の本は、作り方が詳しく丁寧で、しかも、おしゃれですてき!
と評判がよいんです。
日本語が読めなくてもイラストだけでわかるしね。


帰りのパリで立ち寄りたかった手芸店『France Duval-Stalla』。月居先生はここの生地を使って、制作もしています。『なんたって ワンピース!』の作品のいくつかもここの生地で作りました。






途中で立ち寄った、アンジェの街の様子。






おもてなしのランチ


モンクタンの特産ガレット




着物の形をした布に応募者が刺繍やパッチワークなどを施し、着物コンテストが行われました。




月居先生の本を見て作ったワンピースを着て会場に来た、かわいい女の子。

 

絵の好きな父と、洋服を作るのが好きな母

てづこ:
話は変わりますが、先生はいつごろから洋服作りに興味をもたれたのですか?
月居さん:
私の母が洋服を作るのが好きで、父は絵が上手だったの。
父は中原淳一が好きだった。
アップリケの絵は父が描いて、母が洋服につける係でした。
そんな環境で私も、お人形の服を作ったり、中学生になると自分の服を
『装苑』を見ながら作ってました。
おもしろくてね、スカートとか作ってましたよ。

なんでもやりました。

てづこ:
アパレル会社にお勤めのあと、すぐフリーになられたのですか?
月居さん:
10 年近くソーイングの先生のアシスタントをしていました。
そこでは、イスの張り替えから洋服作りまで、
頼まれたことは、なんでもやりましたね。
その時に、ほんといろんなことを覚えましたね、
もう、怖いものがないくらい。(笑)


 

グランプリのミシン

月居さん:
でも、独立してフリーになるのは、やっぱり勇気がいるじゃないですか。
それで、「ソーインググランプリ」という賞に応募したんです。
グランプリをとれたら独立してもいいかなぁ、と思って。
そしたら、グランプリがとれて・・・。
てづこ:
すごい!
月居さん:
その時にもらった賞品のミシンを今でも使っているんです。
「これがなかったら私は縫えない!」ていうぐらいずーっと使っている。
本体がホーローでできていて、一回も故障がないの。何千枚縫ってくれたことか。
考えたら、これが私の一番の相棒だなって!
てづこ:
25年近く先生の仕事を支えているんですものね。
大事な相棒に、名前はついてないんですか? よし子2 号とか。
月居さん:
ついてないの、つけようかしら。(笑)
 

自分のウェディングドレスは・・・

てづこ:
思い出深い作品はありますか?
月居さん:
作品はもう残っていないんだけど、
フリーになるきっかけになった本『手縫いの赤ちゃん服』は、
やっぱり思い出深いの。
あと、これはね、(著書『手作りドレスでウェディング』を見せながら)
シンプルなデザインのウェディングドレスが作りたいなぁ、
と思っていて出した本なの。そのころシンプルなものがあまりなかったからね。
今でも人気なんです。
てづこ:
先生、ご自身の結婚式の時は、作られたんですか?
月居さん:
友達のを借りました。(笑)
てづこ:
ご自身の時は、借りたんですか! そういうもんですかねぇ。

写真左:『手作りドレスでウェディング』(文化出版局、2004 年)
写真右:『愛情いっぱい チクチク 手縫いの赤ちゃん服』(文化出版局、1990 年)


『今日作って 明日持ちたいバッグ』(高橋書店)

すごくバランスを考えて作ってあるんです。

てづこ:
ふだん本のアイデアはどこからくるのですか。
月居さん:
基本的に自分が著者の本は、自分がしたいと思ったことをやっているんです。
この『まっすぐソーイング』の本もそうで、
まっすぐでも、こんなに素敵なものが作れますよ、と伝えたかったの。
そのために、この型紙は、すごくバランスを考えて作ってあるんです。
てづこ:
自分がほんとうに思っていないと、読者にも伝わらないですものね。

忙しい時こそ・・・

てづこ:
先生は、多いときで一日何枚ぐらい縫ったりするんですか?
月居さん:
仕事の締め切り前は、一日で6着ぐらい作らなければ
間に合わない時もあるわね。
てづこ:
わー大変!
月居さん:
でも、そういう忙しい時こそ、何かほかの物を作りたくなるのよ。
今日持ってるバッグも、忙しい時に一晩で編んだの。
それで、すっきりした気分になって、次の日からまた仕事がはかどるのよね。
この本に載っているバック(P6)と同じタイプね。
てづこ:
『今日作って 明日持ちたいバッグ』の本のタイトル通りですね。
月居さん:
私の気持ちです。(笑)
 

着たい!という気持ちが一番

月居さん:
私、自分の服も一日以上かけないの、何日もかけて作ることは絶対ないの。
てづこ:
それは先生がお上手だから、作れるんじゃないんですか。(笑)
月居さん:
いえいえ、(笑) そういうことだけじゃなくてね。
私、とりあえず作って、すぐに着てみる主義なの、今でも。
裏の始末とか細かいことは、まずはいいと思うの。
そこは、段々上手になれば、自ずと技術が伴ってくるから。
まずは「こんな服が着たい!」という気持ちが一番でしょ。
それをすぐに作って形にして、着てみる。
洋服は着てこそ価値があるものだからね。
読者の皆さんも一緒だと思うけれど、
なんたって、自分が着ることを想像しながら、洋服を作っている時って楽しいでしょ。
その楽しさが、ソーイングの醍醐味じゃないかな。



 
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